MBSE の導入
既存システムへの MBSE の事後適用:部分適用から全面適用へ
MBSE は新規開発のための手法と思われがちですが、すでに存在するシステムに後から適用することもできます。本記事では、小さく始めて範囲を広げる段階的な進め方と、その方法を示す公開事例を紹介します。
MBSE の事後適用とは
MBSE の事後適用とは、文書ベースで開発されたシステムや、すでに運用されている製品に対して後からシステムモデルを作り、以降の開発をモデルベースで進めることです。多くの組織にとって、新規開発の開始を待って MBSE を導入できる機会は多くありません。既存製品の改良や派生開発の中で導入する方が現実的です。
事後適用では、既存の設計データや文書を分析してモデルを起こすため、リバースモデリングの考え方が基礎になります(リバースモデリングとは)。
一度に全面適用しない理由
既存システム全体を一度にモデル化しようとすると、工数が膨らみ、成果が見える前に取り組みが止まりがちです。モデルの書き方やレビューの方法が組織に定着していない段階で範囲を広げると、モデルの品質のばらつきも大きくなります。そのため、範囲を限定して始め、効果を確認しながら広げる進め方が勧められます。
段階的な進め方
- 事後かつ部分的な適用。すでに存在するシステムのうち、1つのサブシステムを選んで後追いでモデル化します。変更の予定がある部分や、インターフェースが複雑な部分が候補です。モデルを使って影響範囲の確認やレビューを行い、効果と工数を把握します。
- 発注者と受注者の双方による部分適用。発注者(システム側)と受注者(サプライヤー側)がそれぞれの担当範囲をモデル化し、両者の間のインターフェースをモデルで合意します。文書で受け渡していた取り合い情報を、モデル同士で照合できるようになります。
- 全面適用。新しい開発や大きな改修で、最初からシステム全体をモデルベースで進めます。前の段階で作ったサブシステムのモデルと、組織に定着したやり方がそのまま土台になります。
公開されている事例
こうした段階的な進め方は、公開資料でも報告されています。以下は手法の参考として挙げる公開事例であり、いずれも MBEstudio の顧客、パートナー、推奨を意味するものではありません。
- 宇宙分野。JAXA の小型実証衛星 RAISE シリーズを題材に、事後かつ部分的な適用から始め、発注者と受注者の双方による部分適用を経て全面適用へ進める段階的な MBSE の適用が、INCOSE International Symposium 2023(IS2023)の論文で報告されています。
- 自動車分野。情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア高信頼化センター(SEC)は2015年、自動車のパワーバックドアを題材に、既存システムを分析してから SysML で前向きに設計する事例を公開しています。
分野は異なりますが、どちらも「既存システムを分析してモデルにする」段階と「モデルを使って先へ設計する」段階を分けている点が共通しています。
事後適用で押さえておきたい点
- 最初のサブシステムは、変更の予定があり、他の部分とのインターフェースが明確に区切れるものを選びます。
- 既存の要件は識別子を保ったまま取り込み、元の文書や要件管理ツールとの対応を失わないようにします。
- 推定した値と確認済みの値を区別し、モデルが実物以上に確かに見えないようにします。
- モデルの変更は差分として記録し、節目ごとにベースラインを残します。
事後適用したモデルは、派生開発での影響範囲の確認にも使えます。XDDP との関係は派生開発(差分開発)と MBSEで説明しています。
MBEstudio での事後適用
MBEstudio では、サブシステムを1つずつモデル化し、あとからフェデレーションで統合できます。1つのサブシステムから始める事後・部分適用にも、発注者と受注者がそれぞれのモデルを持ち寄る進め方にも合います。
既存データは、STEP AP242 の CAD(配置済みの部品として取り込み、各ボディは推定値と明示したエンベロープ、データムと幾何公差を保持)、QIF 3.0 の特性と測定結果、KiCad XML ネットリスト、Onshape BOM CSV、ReqIF による要件(IBM DOORS とも連携可能)、PDF や Word などのドキュメントから取り込めます。モデルは SysML v2 のテキストで、コンパイラが検証し、要件は形状、質量、電力に対して値、上限、マージンとともに評価されます。モデルの差分とベースラインで変更の履歴を追えます。
AI エージェント(MBEstudio 内蔵のもの、または MCP 経由の Claude Code、Codex、Cursor、ChatGPT、Claude Desktop、GitHub Copilot)が不足しているインターフェース、機能、要件を提案し、エンジニアがそれぞれ承認または却下します。対応データはリバースモデリング・派生開発、エージェントについてはエージェント、プランについては料金のページをご覧ください。
よくある質問
MBSE は既存システムにも適用できますか?
はい。既存の設計データや文書を分析してモデルを起こす事後適用が可能です。1つのサブシステムから始めて、段階的に範囲を広げるのが一般的です。
最初はどのサブシステムから始めるべきですか?
変更の予定があり、他の部分とのインターフェースが明確に区切れるサブシステムが向いています。効果を確認しやすく、モデルの範囲も管理しやすいためです。
紹介した事例の組織は MBEstudio を使っていますか?
いいえ。JAXA の RAISE シリーズに関する INCOSE の論文と IPA SEC の事例は、段階的な MBSE 適用の方法を示す公開資料として紹介しています。MBEstudio の顧客、パートナー、推奨ではありません。